思い描いた未来と現実のギャップ
起業を考えるとき、多くの人が「理想のビジネスモデル」や「革新的なサービス」を描くはずです。私たちもそうでした。3人の同期で立ち上げた当時、私たちが掲げたビジョンは「パーソナライズ × EC」。
AIとビッグデータを駆使し、顧客一人ひとりに最適化された商品を届ける。そんな、最先端でスマートな未来を本気で信じていました。
実際、アメリカでは同様のビジネスモデルが一定の成功を収めていたこともあり、「自分たちにもできるはず」と強く思っていたのです。当時はライザップをはじめ、パーソナライズ系のサービスが国内でも注目されており、時流にも乗っているという手応えもありました。
しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。
今回は、その理想から現実への落差、そして失敗から得た気づきを、包み隠さずお伝えします。
起業当初の構想:「パーソナライズEC」の青写真
起業時に描いたビジネスモデルは、こうです。
AIとビッグデータを活用し、個々の嗜好や購買データをもとに、最適な商品を提案・販売するECプラットフォーム
私たちメンバーのバックボーンがエンジニアだったこともあり、システム設計や分析ロジックには自信がありました。
事業計画書も、先進的なイメージを全面に押し出し、華やかなグラフや数値をちりばめて、「これはいける」と自分たちでも信じていたほどです。
新規事業手掛けいてる新卒の会社の先輩や周囲の人にも、「面白いね」「未来があるね」と言ってもらえ、ある種の“確信”が生まれていました。
現実との衝突:浮き彫りになった壁の数々
しかし、いざ実行に移してみると、想定外の課題が次々と襲いかかってきました。
1.商品開発の壁
顧客ごとの商品をパーソナライズするには、多種多様な商品パターンが必要です。しかし、ECも商品開発も未経験だった私たちにとって、OEM開発の調整や制約はあまりにも高いハードルでした。
2.開発費と在庫リスクの爆発
少量多品種を実現するには、それだけ在庫も膨大になります。小さな資本金では、そのすべてを賄うのは不可能でした。
3.システム開発の難易度
AIやビッグデータ分析の知識はあっても、実際にプロダクトとして形にするための技術力や外注リソースが足りませんでした。委託すれば高額な費用が発生し、開発は完全に暗礁に乗り上げました。
4.未経験×未経験という地雷
振り返れば、「ECもパーソナライズシステムも未経験」という、自分たちの「弱みの掛け算」に挑んでしまったのです。今なら「なぜその領域を選んだ?」と自分たちに突っ込みたくなります(笑)。
5.数字にリアリティがなかった
事業計画書で描いた未来は、現実のコストや在庫、人件費などに落とし込んだ瞬間、すべてが成り立たないことが明らかに。机上の空論だったと痛感しました。
方向転換:現実を見て、理想を一度横に置いた
資金も時間も減り続け、焦りと不安が募る中、私たちが出した答えは「一度、理想を捨てて、できることから始める」ことでした。
方針転換のポイント:
- 商品ラインナップを絞り、シンプルなECモデルに転換
- パーソナライズ要素やAIシステムは一旦封印
- 手作業でも運用できるシンプルな仕組みを構築
- 小ロット・低在庫で運営可能な商品設計に集中
事業転換というと聞こえはいいですが、実際は「これしか道が残されていなかった」のが正直なところです。
私たちはまず、“自分たちでモノを売る”という、小さくても確実に実行可能な領域からやり直す決断をしました。
そして、それが結果的に現在の事業の礎となったのです。
失敗から得たリアルな学び
この経験から得た教訓は、起業を考えるすべての人に届けたいリアルなメッセージです。
1. 事業計画は、描くより実行の方が100倍難しい
数字やグラフは美しく描けても、そこにリアルな運用負荷・費用・人の動きが乗ると話はまったく変わります。
2. 未経験領域の掛け算はリスクでしかない
最低でもどちらかは「自分たちがわかる・経験がある」領域にすべきです。知識ゼロ × 知識ゼロでは、前に進めません。
3. スモールスタートは「守り」ではなく「戦略」
小さく始めて、PDCAを回しながら精度を上げていく。これが結果的に最短で成功に近づくルートです。
4. 大きな構想にはVCなど外部資金が必要不可欠
自己資金で限界のあるモデルは無理に走り出さず、必要なら最初から外部パートナーを巻き込むことも選択肢の一つです。ただし外部資金を入れるということは自分たちの自由な思想で事業を展開することができなくなってしまうため、上場を目指す等の志を高くないと厳しいとも思います。
今、振り返って思うこと
あのときの失敗は、今の私たちをつくる「最良の教材」でした。
描いた理想は形を変えましたが、その理想を信じて走り出したからこそ、現実を学び、今があります。
現在では、小規模ながらも安定したEC事業を運営し、リピーターも増え始め、売上も少しずつ伸びています。
決して派手ではありませんが、「本当に求められているものを、届ける」ことの本質をようやく理解できた気がします。
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